❸「国際男性デー」に関連づけて

第三章 「いき」の理解 応用編 
        (関連概念の位置づけ)

「いき」とは奥深いもの。前述の「いき」の三要素から派生して、更にその特徴を浮き彫りにしていきたい。

1.上品・下品(じょうぼん・げぼん)
上品:物や人間の価値/趣味の優劣に関わる概念。異性との関係に限定されず、人間性全般に適用される。高雅で価値あるものを意味する。
下品:上品の反対。趣味性が劣り、価値が低いものを指す。

「いき」との関係
*上品との共通点として価値や趣味の優れた性質を持つが、媚態があるかどうかで区別される。「いき」には異性に対する駆け引きとしての媚態が含まれる。
*下品は媚態の要素を共有するものの趣味性の優劣で区別される。「いき」は価値があるが、下品は劣る。

※したがって、「いき」は上品と下品の中間的存在と見なされることがある。

2.派手と地味
派手(葉出):自分から外に向かって自己主張するあり方。華美や装飾を好み、他人に見せることが前提。
積極的・表面的な振る舞い。派手は地味と対になり外面的な華やかさや装いの印象に関わる概念。
地味:「地の味」、自分の内に沈潜するありかた。装飾をほとんど示さず、外向的な自己表現がない。
消極的・内面的な振る舞い。派手と地味の差は価値判断ではなく、他人に対する自己主張の強弱・向きの違いにある。

「いき」との関係
*派手におけるは共通点:他人に対して積極的に媚態を示す。相違点は派手は華美・ひけらかしが過剰で、調和や諦めが欠けるため、「いき」の要素である「諦め」と相容れないこと。
*派手は吟味されると趣味の下劣さが露呈し、下品と評価されやすい。
*地味との共通点はない。地味は外向的な媚態がないため、直接的には「いき」と相容れないためである。
*地味との間接的関係:地味の内面沈潜や素朴さは、「いき」の要素である「諦め」に通じることがある。
 地味が吟味されると上品と評価されやすいのは、この内面的なさびや奥ゆかしさによる。

3.意気と野暮
意気:異性との係わりにおける特殊な洗練のありかたを示す。世情や人情に通じ、遊里の作法を理解し、垢抜けた態度を持つこと。「気象(気性)の精髄」であり、遊里の玄人から見ても価値あるもの。
野暮:世情に疎く、垢抜けず、粗野で田舎くさいこと。洗練や通人の価値観から見れば否定的。ただし、野暮であることへの自負もあり、趣味や価値観の違いとして肯定的に認識される場合もある。

「いき」との関係
*意気は、遊里の世界での価値判断において、意気=「いき」として価値があるとされる。
*野暮は、通人/粋人に対しての言葉として、世情に通じず人情を解しない粗野で垢抜けない田舎者を意味する。 ただし、野暮に対する自負の念を込めて、それを誇りとして主張しているときもあり趣味性の違いとされる。

4.渋味と甘味
渋味:渋味は異性関係に特化せず、より広く文化的趣味の成熟や落ち着きを示す概念。他者に対して消極的、慎重、自己防衛的な態度。渋味は控えめで消極的な態度、諦めや精神的洗練と結び付くと「いき」に通じる。
甘味:他者に対して積極的に接近する態度。甘える/愛嬌を示す、積極的な媚態や親密さを示す。

「いき」との関係
*「いき」の諦めや淡々とした境地は、渋味的態度に通じる。渋味は「いき」の精神性に整合する要素として肯定的に作用する場合がある。
*甘味は派手のように積極的な媚態や表現になると「いき」の境地を逸脱し、野暮になる可能性がある。

以上までが主たる「いき」の構成要素に対する関連概念である。
繰り返しになるが「いき」は男と女の艶やかな世界を演出するだけのものではない。その領域、価値は多岐に及ぶのだ。
例えば美意識における「さび」「雅」「味」「乙」「きざ」「いろっぽさ」。そして身体的表現としての「言葉遣い(言い振り)」「姿勢」「衣装」「体つき」から「色」「模様」「建築」「音楽」などの芸術的範疇までその幅は広い。
「いき」というものがいかに江戸の文化に浸透していたかが伺われる。それは過ぎ去った江戸文化、その栄華の証として留めておくだけでなく、いまの時代、特に我われ男たちが生きる上での潤滑油として再度身近に据え直すことを求められているような気がしてならない。令和の時代に男性も女性もそんな粋な振る舞いを優雅に洒落っ気たっぷりに楽しんでみてはいかがだろうか?
次項、実践編につづく。

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